【書評】『有機農業運動と<提携>のネットワーク』
(大江 正章)

発行:新曜社
本体価格4800円+税
有機農業を考える必読書
有機農業という言葉はいまや一般にかなり浸透したが、その本質的な意義や40年近くに及ぶ日本の有機農業運動について広く知られているとは言いがたい。本書は提携という言葉をキーワードに、現在に至るまでの有機農業運動の流れとその社会的・歴史的意義を整理した、きわめて質の高い作品である。
第T部では有機農業運動の展開過程を草創期・拡大期・転換期に分け、その変容を分析している。とくに、70年代後半から約10年間の質的な深まりと、そこで明らかになった問題を描いた第2章は、読みものとしても非常に面白い。同時に、提携が転機に立たされ、自主配送などの見直しも必要とされている状況のなかで、有機農産物の共同購入だけでない地平を切り開いていくことを提起している点に共感した。
第U部は、酪農から出発した奥出雲地域(島根県)、柑橘農家集団が担う明浜町(愛媛県)、行政主導の綾町(宮崎県)を事例とした、有機農業運動の地域的展開のレポートである。すぐれた在地のリーダーの牽引力で、制度化や商品化の波と向き合いながら、地域への確固とした広がりを見せてきた過程が、よく描かれている。著者によれば、「<提携の経済>が有機農業の産業化を超えようとしている」のである。
本書は専門書の体裁をとっているが、叙述は決して難解ではない。また、常に全体状況に目配りしつつ具体的なケースが多く紹介され、スローガンに陥ることはない。しかも、無味乾燥な学者の論文ではなく、「『経済の論理』に対抗し、『生命の論理』にもとつく社会経済システムの組み立て直しへ向か」おうとする有機農業運動の思いの共有が、全編をとおして貫かれている。
70年代なかば以来、有機農業運動のもっとも誠実な伴走者として調査・研究・生活し、社会学をベースに丹念なフィールドワークを積み重ねてきた著者にして初めてなせる業であろう。
日本の有機農業を考え、論じるうえで欠かせない必読書の誕生を心から祝いたい。惜しむらくは、定価をせめて3000円台にしてほしかったが、それはもちろん著者の責任ではない。
著者も述べるとおり、農業の再生や地域の内発的発展をめざす農山村ではいま、有機農業への期待が高まっている。一方で、これまでの提携運動においては「消費者が生産者より優位な状況にあることから起きる問題」が解決されず、ともすればムラで生きる生産者のリアリティへの配慮に欠けてきたのではないだろうか。
有機農業推進法の成立も背景にした、有機農業を核とする地域の再生運動は、著者がいうように「農林漁業が支える社会に向けての産業構造転換の突破口」となる。それは、人とモノの交流をとおして都市と顔の見える社会的・経済的関係性を創り出すという意味で、農山村発の新たな提携運動と言ってもいいかもしれない。

