JAPAN ORGANIC AGRICULTURE ASSOCIATION

日本有機農業研究会

【書評】『地域の力』

(多辺田 政弘)

地域の力

大江正章著
発行:岩波書店
本体価格700円+税

地域の協同の力が支える持続可能な地域社会
 やはりモノとカネのボーダレスな経済に巻き込まれた国や地域はどこでも「持続性」を見出せないという隘路(あいろ)に陥っている。そのなかで、日本各地で知恵を出し合い、自前の資源と人を生かし合って、その隘路からの脱出の試みを果敢に挑んできた人々がいる。
 本書はそれらの試みとそれを生み出した「力」は何かを探り出そうとした渾身のルポルタージュ(現地報告)である。
 本書のキーワードは「地域の協同の力」が支える「持続可能な地域社会」であり、その基底としての「農的世界」である。まさに日本の有機農業運動が40年以上をかけて切り拓いてきた理論と実践の延長線上に広がる地平である、と言って決して過言ではない。
 まず、着実な歩みを続けてきた島根県木次町の地域自給ネットワークの広がりをはじめとして、北海道標津町の畜産の在り方を変えた飼料自給の試み、体験農園という都市農業の新しい在り方、など「農的世界」を基底に見据えながら、その視野を広げていく。地域の林業を守り育てる試み(高知)、地域の草木資源を生かす老人力(徳島)、市民の足としての路面電車の復活(富山)、地域密着の商店街の灯を絶やすまいとする各地の「わが街」再生の物語。自分の地域の問題を「わが事」として取り組んできた人びとの顔が見えてくる。
 「住民自治」という基本が決してブレることなく、行政も農協も商店街も味方につけていく「したたかなバランス感覚」を持ったダイナミックな住民の動きを、著者は節度を持ってとらえている。率直な疑問や適切な批判の目も手控えてはいないのが良い。

農的世界へ「沈静化」せよ
 著者大江正章さんのルポライターとしての「慧眼」は一朝一夕にできあがったものではない。大江さんは、有機農業運動との長い付き合いを持ってきた出版人(編集者)である。若き日に手掛けた玉野井芳郎・坂本慶一・中村尚司編『いのちと農の論理』(学陽書房、1984年)以来、有機農業や環境問題・住民運動の現場を歩き続けてきた異色の出版人として知られている。
 その過程で、ルポライターとしての関心の視野を広げ、確かな目を育て上げてきたのである。その長い「溜め」が本書を見事に結実させたのだろう。
 「地域の活性化」という相変わらずの泡沫の夢(拡大主義)に浮足立つ世の中で、持続性のある「地域の力」を持って農的世界(地域のコモンズ)へ「沈静化」せよ、とのメッセージに希望を見出すことができる。

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