
―政策と法制度の課題―
本城 昇著
2004年3月、290頁
本体6400円+税
農山漁村文化協会刊
研究者には大別して、二通りのタイプがある。圧倒的に多いのは、研究のための研究に終始する研究者である。これをⅠ型研究者と呼べば、彼等にとって農業・農村・生産者は《単なる研究材料》でしかない。だから万一、日本農業が崩壊したとしても、彼等は全く困らない。なぜなら、その時は、崩壊の要因を分析して論文を書けば、研究業績にカウントされ、《飯のタネ》になるからだ。
これに対してⅡ型研究者は、志ある生産者や消費者を《同時代を生きる同行者》と捉え、彼等と連帯しようとする、学界の変わり者である。その筆致・舌鋒は鋭く、行政から煙たがられる存在であることが多い。本書の著者、本城昇氏は、まさにⅡ型研究者の代表的存在である。
思うに、本城氏がいま、本書を上梓した背景には「このままでは、日本の有機農業は農水省に潰されてしまう」との危機感がある。
本書の記述を参考にして、有機農業に関わる農水省の愚策事例を紹介してみよう。
◆01年のBSE事件で行政の不作為を厳しく糾弾されてから、農水省は「羮(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」ような愚策を重ねた。特定農薬制度の導入はその典型である。02年夏に発覚した無登録農薬事件を契機に、農水省は同年12月に農薬取締法を改正し、同制度を導入した。現在、①重曹、②食酢、③地場で生息する天敵が特定農薬に指定されている。
食品である食酢を農薬と呼ぶこと自体、社会通念に反しているが、もし、有機農業側が共闘し、問題点を指弾する全国運動を展開しなかったら、アイガモやカブトエビなども特定農薬として農水大臣及び環境大臣の指定を受けない限り使用できないという、馬鹿げた状況を招来していたかもしれない(現在、特定農薬は特定防除資材と呼ばれている)。
◆00年8月に長野県小布施町で発生した《空散農薬による有機圃場汚染事件》を契機にして有機農業側が連携して立ち上がり、粘り強い行政交渉の末、01年2月に農水省生産局長通知を出させることに成功した。――通知に曰く、農薬の空散実施主体は「飛来する農薬が原因となって有機農産物に関する認証が受けられなくなる等の防除対象以外の農産物への損害が生じない」よう、「必要な措置の徹底」を図るべし、と。
同通知は02年3月に改訂され、「必要な措置」の一つとして、空散場所と有機圃場との間に「適切な間隔をとる」ことが明記されたが、もし、有機農業側の長く粘り強い空散糾弾交渉がなければ、法的根拠のない単なる行政指導にすぎない「農林水産航空事業促進要綱」、同「実施指導要領」がいまも幅を利かし、地域の有機農業生産者は泣き寝入りを強いられていたかもしれない。
これら二事例については、本誌でも本城氏らが詳しく報告しているが、農水省の有機農業認識はボケており、施策も的外れである。
本城氏は常に有機農業側に立って二事例を含む数多くの行政交渉を先導され、その経験を踏まえて本書を上梓された。評者の読むところ、本書の結論は《①提携型有機農業への政策的支援が不可欠、②それを担保する有機農業育成基本法・直接支払制度など法制度の整備を急げ》である。まったく、同感だ。
今も昔も、毒にも薬にもならぬ研究書が多いが、本書は熟読に値する稀有な存在である。