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表紙写真

『有機農業の事典』

天野慶之 高松修 多辺田政弘編
三省堂 発行
定価=本体2200円+税

 新装復刻版の刊行によせて

 本書の刊行は、日本有機農業研究会が発足してから一五年近くの歳月が流れた一九八五年である。編集にあたったのは、当時、日本有機農業研究会代表幹事であった天野慶之(元東京水産大学学長)と、同常任幹事の高松修(元都立大学工学部助手)、多辺田政弘(元国民生活センター調査研究部)の三氏である。著者は日本の有機農業運動を草創期から確立期にかけて担った生産者、消費者、研究者ら五〇人である。「農耕」「畜産」という有機農業に直接かかわる項目から、「海の幸」「健康」「食べ方」「暮らし方」にまでおよぶ広範な六項目にわたって、有機農業を可能とする社会経済の〈仕組み〉の〈トータル〉な模索が熱く語られている。
 日本の有機農業運動は、生産者と消費者が相互の信頼関係を土台にして直結する〈提携〉という関係性(いわゆる「顔の見える関係」)のもとで有機農業の実践を広げていくという独創的な方法を軸に運動が高揚していた。当時の有機農業運動の方向性は、現在の有機農業ブームとは明らかに逆のベクトルをもっていた。生命の源である食べ物を工業製品と同じように商品化して、生産性や効率、利便性を追い求めるのではなく、「水土のもつ諸条件を包摂して、水、燃料、動力、堆肥などを含めて生活のあらゆる側面での自給度を高めていく方向」(三五四ページ)を模索していたのである。
 ところが現在、歯止めなき経済のグローバル化・ボーダーレス化のもとで、有機農産物は差別商品化・ブランド化し、広域・国際流通化が進行している。そのために有機認証システムや表示の国際的整合化が進められている。また、トレーサビリティやリスク評価といった情報伝達手法の導入、規制やチェックシステムの強化などが図られている。にもかかわらず、日本でもBSE(狂牛病)や鳥インブルエンザが発生し、牛肉や精肉の偽装や無登録農薬の販売・使用など、食の安全性を脅かす事件が頻発している。辺境(周縁)であったがゆえに近代化の波にすべて飲み込まれることなく、「在地」の暮らしと文化が脈々と継承され息づいていた地域にも、WTO体制や有機JAS認証の問題、遺伝子組み換え作物などが持ち込まれ、グローバリズムとローカリズムが鋭く対峙する状況を呈している。
 アメリカでは有機農業をもいち早く産業化してマーケットの拡大が図られている。だが、他方では、有機認証システムのグローバル化と連動した連邦レベルの基準や認証制度施行の動きに対抗して、草の根レベルでCSA(コミュニティを支える農業)が広がっている。日本においても、生産者と消費者がこの三〇年間に培ってきた「生命共同体」ともいうべき提携関係の重要性と変革力が、食料供給の世界システム形成のもとで再認識されている。
 有機農業運動は何をめざしてきたのか。本書には、地産地消、スローフード運動とも呼応して、現在の食と農の危機的状況を切り拓く有機農業運動の原点である「日付のある判断」(鶴見俊輔)や知恵がつまっている。欧米諸国においては、日本の提携運動と共振して「コミュニティを耕す」(二〇〇二年夏のIFOAM世界会議のテーマ)運動が広がりをみせている。まさに時宜をえた『有機農業の事典』の復刻新装版の刊行である。

(桝潟俊子)

  ※本書のお申し込みは、本会事務局までご連絡ください。

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