JAPAN ORGANIC AGRICULTURE ASSOCIATION

日本有機農業研究会

生産者と消費者の提携の方法

解説
 「生産者と消費者の提携の方法」は、日本有機農業研究会の発足(1971年)からほぼ7年後、各地での活動を踏まえてとりまとめられ、1978年11月25日、長野県臼田町佐久総合病院に於いて開催された第4回全国有機農業大会で発表された。それは、翌年2月、会誌『土と健康』(No.78、1979年2月号)に一楽照雄によるコメントを附して掲載された。その後、これは「提携10か条」「提携の10原則」として、有機農業運動の指針となってきた。近年は、このコメントを附した原典を見る機会が少なくなっていることから、全文を復刻し、掲載することにした。


生産者と消費者の提携の方法について

■第四回全国有機農業大会では、一日目に若月、古守、梁瀬の三氏による講演があり、その内容は本誌の前号に掲載した。
 二日目は「生産者と消費者の提携の方法」をテーマとし、消費者として埼玉県「所沢生活村」の田口和枝・白根節子、生産者として福島県船引町の村上周平、生協として埼玉市民生協の常務理事山口順三、農協として大分県下郷農協の参事玉麻吉丸の各氏からの体験発表と提携方法研究委員会からの問題提起があった。

 こんどの大会で生産者と消費者の提携方法ということをテーマに選んだのは次のような理由によってであった。

 有機農業を理解し共感しても、いざこれを実行しようということになると、その生産物をどういうやり方で消費者の手に渡し受け取るか、そのやり方をどうするかが避けられない問題である。しかもこれには過去にも現在にも国内にも国外にも、われわれが手本とすべき事例は見当たらない。
 したがって、わが国の有機運動の先駆者たちは自ら独創的に工夫して、それぞれのやり方をしているのであるが、何れの場合でもなかなかに苦労があり骨の折れることが絶えないようである。
 やり方には、何処を探し誰に尋ねても、これだ、と言えるような安易な決め手が見つかる筈がなく、リーダーたちには辛棒強い努力が必要なことを覚悟しなければならないが、今までの経験を検討し反省して、こんごの在り方として最も好ましい姿を描き、それに通ずる方法としての常道を示すことが、今日的課題である。
 この意味において、今回は大会に先立って、実践者の有志を主体とする臨時の提携問題研究会に共同研究を煩わし、まとめられた意見を問題提起として大会に発表してもらった。この提言はこれからの実践において大いに参考または指針となるからここに掲げ、各項目毎にわたしのコメントを附記する。


生産者と消費者の提携の方法

一、生産者と消費者の提携の本質は、物の売り買い関係ではなく、人と人との友好的付き合い関係である。すなわち両者は対等の立場で、互いに相手を理解し、相助け合う関係である。それは、生産者、消費者としての生活の見直しに基づかねばならない。


 ここに言う生産者と消費者の提携は、消費者側で使われる「産直」とか、生産者側で使われる「直売」とは意味を異にする。「産直」とか「直売」というのは、できるだけ安く買いたい、できるだけ高く売りたいの願いから中間を排除しようというのであって、目的のための方便にすぎない。われわれが提唱するのは、信頼を土台にしての相互扶助そのものを目的としての提携である。
 生産物が生産者から消費者に提供されるのに対しては、消費者としては何らかので代償謝礼をしなければならない。それは通常金銭をもってするより他に方法がない。したがって物と金銭とが交換される形だけからすれば、売り買いであり法律的にも取引に他ならない。しかし本質としては相互に贈与的な性質の行為である。
 すなわち、物を交換価値で評価しないで使用価値で評価する。金銭の授受は形としては物の代金であっても実質は代償と謝礼である。だからその額も市場で形成され常に変動する必要がなく、当事者同士で自由に決めることができるし、固定させることもできる。品物については形や色よりも安全性や味によって評価され、その取扱いに選別、包装、荷造りなど、商品流通としては一般に極めて重要なことが、ほとんど不要である。
 要するに、お互いの心組としては、相手を取引の相手と見るのでなく、家族の延長として普通の親戚や友人以上に苦楽を共にする相手と見るのである。
 このような付き合い関係を維持するためには、双方が相手の立場を十分に理解することと、飽くまでも対等の姿勢を崩してはならない。そして「大欲は無欲に似たり」とか「なさけ(情)はひと―他人―のためならず」とかの諺の真実さを味得すべきである。
 さらに前提として必要なことは、今日の杜会に生きることによって、われわれが日常生活において知らず知らずに形成させられてきた習性に対する反省である。われわれは常にあらゆることで競争心理を駆り立てられ、他人の事には色盲的になっているだけでなく、自らのためにも手段のために目的を見失う傾向に陥っている。
 すなわち、金銭よりも生命が大切であるとか、幸福は必ずしも金銭で買えないというような本来自明のことを忘れがちになったり、便利さよりも安全さが尊いとか、物には商品よりも商品でない物に貴重な物が多いというようなことにあまり気づかなくなっている。
 いまやわれわれは経済成長や所得増大の迷夢から醒めて、日常生活を自己を取り戻した生活に切り替えねばならない。例えば農家であれば食べ物の全面的自給自足を、非農家であれば食膳からの加工食品追放を、先ず実行すべきである。

二、生産者は消費者と相談し、その土地で可能な限りは消費者の希望する物を、希望するだけ生産する計画を樹てる。


 生産者としては、収穫した物は全部を確実に消費者に引き取ってもらうため、消費者としては、欲する物をできるだけ確実に生産してもらうため、生産計画を両者が協議して樹てることが必要である。
 毎年の作付に十分間に合う時期に、消費者は欲する物の品目と数量を生産者に呈示し、これについて生産者は、その土地で生産可能な物はすべてを受け入れて、それぞれの希望数量を生産目標とした作付を計画する。
 こうして作成した作付計画を生産者は忠実に励行し、収穫を見るまでの間その肥培管理に万全を期する。その間消費者が成育状況の視察や農作業の手伝いに行くことは生産者によって歓迎される。
 しかし、収穫量はなかなか目標通りには実現しなく常に多少の相違が免がれない。時には大豊作や大凶作があることも覚悟しなければならない。生産者が計画通りに作付けをし、肥培管理を手落なく行った限りは、消費者としては何らの不平不満を持つことができない。

三、消費者はその希望に基づいて生産された物は、その全量を引き取り、食生活をできるだけ全面的にこれに依存させる。


 商品に依存した通常の食生活であれば、その日その日の夕刻に店頭を訪れて、欲しい物を欲しいだけ物色すればよいわけであるが、そんな自由はない。
 かねて共同で樹てた作付計画に基づいて収穫できた物が、その時にその量だけ提供されるのであるから、消費者としては今更選択の余地は全くないが、常に新鮮であってかつ旬(しゅん)の物が得られることに満足する。それをどのように調理して食膳にのせるかが、頭の使いどころである。
 提供される品数や量は、日により季節により一定しない。その日その日に欲しい品数と量には過不足があるのが当然である。調理や保存に工夫を重ねることによって上手に調理することが肝要である。
 調理の仕方や過不足の調節についての研究をしないで、ともすれば食膳の貧しさを防ぐために商品の購入に赴くのは、意志薄弱と怠慢のそしりを免がれない。

四、価格の取り決めについては、生産者は生産物の全量が引き取られること、選別や荷造り、包装の努力と経費が節約される等のことを、消費者は新鮮にして安全であり美味なものが得られる等のことを十分に考慮しなければならない。


 価格とは言っても、品物の代金というよりも、行為に対する謝礼というべき性質のものであるから、それを決めるには価格理論を気にする必要はなく、両者が納得できるものであればどんな方法によるのも自由である。
 商品の価格のように、需要供給の関係などで絶えず変動することはない。どちらかの側からの提案があるまで固定する。
 その額を、生産者が市場出荷の場合に比べるに当っては、単に市場の仕切価格だけではなく、市場出荷に伴う諸般の出費と不利益を計算に入れねばならない。また消費者が店で買うのに比べる場合は、物の質が異ること恰も肉筆画と復製品のようなものであることを思わねばならない。

五、生産者と消費者とが提携を持続発展させるには相互の理解を深め、友情を厚くすることが肝要であり、そのためには双方のメンバーの各自が相接触する機会を多くしなければならない。


 生産者と消費者の付き合いが円満に続くためには、互いに相手の立場を理解することと、相信頼することが絶対に必要であり、このためには顔と顔を合わして話す機会を持つことが、最も効果的である。
 したがって双方とも、グループのリーダーや一部の有志だけでなく、なるべくメンバーの誰でもが相接触する機会を設けることが望ましい。
 特に大都会の主婦たちが、農村を訪ねて農家の生活と農作業について、ほんの一端に触れるだけでも、生産者の環境と立場を理解するのに非常に役立つ様であり、そのことは生産者にとって少なからぬ励みとなるらしい。

六、運搬については原則として第三者に依頼することなく、生産者グループまたは消費者グループの手によって消費者グループの拠点まで運ぶことが望ましい。


 生産物を生産者の手から消費者個々の手に渡すまでの運搬こそ、最も面倒な苦労の多い問題である。
 この仕事は業者に請け負わせたり、使用人に任せきりにすることはできない。努めて生産者自らが消費者グループの各拠点まで運搬すべきであり、消費者側が生活協同組合であって輸送車を持っている場合はこれを利用することもあろう。
 この運搬の都度生産者と消費者とが顔を合わすということは、互いに親近感と責任感を強めるのに、測り知るべからざる効果があるらしい。
 消費者グループ内の各拠点から個々の家庭までの分配のやり方は、各自が取りに行くか、交代で一人が各家庭に届けるかの何れかである。

七、生産者、消費者ともそのグループ内においては、多数の者が少数のリーダーに依存しすぎることを戒め、できるだけ全員が責任を分担して民主的に運営するように努めなければならない。ただしメンバー個々の家庭事情をよく汲み取り、相互扶助的な配慮をすることが肝要である。


 いかなる運動にあっても、先ず強力なリーダーが居って、その熱心な世話がなければ、実際には進展しない。
 しかし、リーダーの献身的奉仕をいいことにして、他の者がこれに頼りすぎて、いつまでたってもリーダーの手が抜けなくて、疲れて来るとか、また自然にワンマン運営の弊に陥る傾向が生まれやすい。
 メンバーの全員が責任を分担して民主的に運営するということは、一刻も忘れてはならない鉄則であるが、これを実際に行うことについての具体的措置、緩急の度を適正にすることは実に容易ならぬことである。それには一般的に共通的に通用するやり方はないのかも知れない。実践者の経験を聞き、自らの試行錯誤を重ねて、前進のための改善を繰り返すより仕方がない。

八、生産者および消費者の各グループは、グループ内の学習活動を重視し、単に安全食糧を提供、獲得するだけのものに終らしめないことが肝要である。


 われわれは、目が有機農業に開かれた以上は、その開かれた目が逐次いろいろと他のことにも向けられて行く。そうするのでなければ、有機農業に取組んだ意味が少ない。健康の問題も、農薬に無縁の物を用いるだけでなく、食生活全般のことで開眼しなけれぱならない問題が多いし、からだの運動や精神の持ち方などがあり、環境汚染の問題も見逃がせない。
 今日のわれわれは、自主的な学習によって発見しなければならない無数の危険の申に埋没している。
 各グループはその内部において、全メンバーの自主的学習を促進することが緊要であり、みんなが参加できるような方法で、学習会を定期的に持つことが望ましい。最も手近なこととしては、われわれの機関誌であるこの『土と健康』を利用するということもある。

九、グループの人数が多かったり、地域が広くては以上の各項の実行が困難なので、グループ作りには、地域の広さとメンバー数を適正にとどめて、グループ数を増やし互いに連携するのが、望ましい。


 提携する生産者グループと消費者グループは農産物の生産可能数量と消費者の要求数量とが相見合うように、双方のメンバー数が釣り合わねばならない。一方のグループでメンバーの増加が可能になれば、柚手のゲループでもそれに対応するメンバー増が図られる。
 しかし一グループのメンバー数があまり増加するのは好ましくない。専従者を必要とするという声が起こったり、運営が円滑を欠き易くなる。したがって一組合でメンバーの数が適当と考える限度を超えそうになれば、別に新しく兄弟グループを作ればよい。
 また、メンバーの数は同じであっても、それが広い地域に分散しているグループと、狭い地域に密集しているグループとは大ちがいである。グループを作ることだけなら前者の方が安易であるが、作った後の運営を考えるなら、グループ作りには後者の方が好ましい。

十、生産者および消費者ともに、多くの場合、以上のような理想的な条件で発足することは困難であるので、現状は不充分な状態であっても見込みある相手を選び、発足後逐次相ともに前進向上するよう努力し続けることが肝要である。


 以上の各項に直ちに全面的に共感できるような意識の人が多くて、それらの人をメンバーとしてグループ作りをすることができるのであればよいのだが、そのような人はめったに居ないのが現実である。
 したがって、われわれとしては、こうした意識には達しない人びとをメンバーとしたグループで出発するより他ない。しかし、学習と実践を重ねる中で、意識変革が進展することが期待できる。
 とかく、いろいろな運動において、その量的発展のために質を犠牲にすることや、大義名分のない分裂を招くことが少なくない。有機農業運動はこうした通弊に陥らないようにしたいものである。



■提携問題研究委員会は、第一回の会合を九月三〇日の夕刻に始めて夜半まで意見を述べ合った。この意見を多辺田、築地両氏とわたしが取り纏めに当り、十月二八日の第二回会合で検討し修正して大会に提出したのであり、築地氏が説明した。
 因に提携問題研究委員会第一回会合に参加したのは中川信行、村上周平、和田博之、鈴木昇、金子美登、大平博四、白根節子、戸谷委代、唐沢とし子、浅井まり子、保田茂、多辺田政弘、築地文太郎、竹本洋二の各氏及びわたしであった。

(常任幹事 一楽照雄記)


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