JAPAN ORGANIC AGRICULTURE ASSOCIATION

日本有機農業研究会

「遺伝子汚染」に特許権侵害を認めたシュマイザー裁判の教訓  鹿島港付近で遺伝子組換えナタネが自生
―汚染被害、日本でも?

日本有機農業研究会 『土と健康』 04年8・9月合併号 科学部 山田 勝巳

 今年5月21日にカナダ最高裁は、遺伝子組換え(GM)特許権侵害裁判でGM汚染を受けたシュマイザーさんの有罪を確定したが、6月29日には鹿島港周辺の道路脇にGMナタネが自生していることを農水省が発表し、今後、日本でも同じ汚染被害が起こることが必至と考えられる。この判決について、農家が汚染をどう法的に考えたらよいか、参考のために検討したい。


判決の意味あい

 1 特許種子を採種し栽培したことは、本人が意図するしないにかかわらず特許権侵害に当たる。

 2 上訴人(シュマイザーさん)は、従来のナタネ以上に組換えナタネによって特別の利益を得ていないので、モンサントに対し裁判費用を含む賠償をする必要はない。

生命特許の肯定?

 カナダ最高裁は、これ以前にガンの実験用に組み換えたGMマウスについて特許は取得できないと判断をしており、その際「高等生物の生命特許は認められない」ということを宣言していた。植物も高等生命であるから、今回の判決は前例の判決と矛盾する。

農家の特許権侵害賠償責任を否定したことは大きな成果

 連邦控訴審(二審)では、175,000カナダドルとモンサントの裁判費用を支払うよう命じられたが、これをくつがえしたことは、大変意義がある。これまで、連邦控訴審の判決を楯にモンサントは農家を脅していたが、今後はモンサントによる脅しも訴訟も激減するか、もしくは起こらないだろうと思う。この判決は、農家が汚染を受けた場合、一般品種よりも特別の利益がない場合は、モンサントに特許料や技術料を支払う必要がないことを明確にした。しかし、望まないのに汚染を受けた被害の賠償には一切触れていない。これについては、有機農業団体(SOD)が集団訴訟を起こしているのでそちらの結果を待ちたい。ただし、この判決が栽培面積の減少につながることは期待できない。


汚染してもお咎めなし

 今回の判決は、事実上GM品種をF1品種や固定種と同等の扱いにすることを意味する。開発企業は、種子販売について特許料を購入者から受け取ることができると同時に、汚染してもお咎めなしということになる。

特許の意味

 モンサントは、組換え遺伝子と細胞とそれを可能にする技術に対して特許を主張しており、それを持つ植物体に対する特許は求めていない。しかし、今回問題となったのは、特許遺伝子と細胞を持つ植物体であるナタネであり、こんな不可分のものを分けて議論するのはばかげている。さらに、先般、カルタヘナ生物多様性条約が発効してから最初となるマレーシアでの会議で、汚染者の賠償責任を今後の作業で決定することが決まったことから、モンサントのこの定義は、賠償問題を先取りして未然に賠償責任を逃れるためのものとも考えられる。


参考 生物多様性条約のカルタヘナ議定書に関し、2月にクアラルンプールで合意された主な点

 ●賠償責任(Liability)――GMによる損害に対する国際的賠償制度はないが、2007年までに国際的賠償と救済手続き及び規制を完成させるというはっきりした使命を持つ作業グループが設置された。

 ●履行責任(Compliance)――15名からなる履行委員会が設置され即時運用になった。自己申告だけでなく第三者が不履行を訴えられるようになった。不履行に対する対応として純粋に対応力のない国に対して助成すると共に警告と公表ができる。執拗な違反者には、さらなる対策を今後の会議での合意に基づいて実施することができる。

 ●表示(Identification)――輸入国はどのようなGMであるのか正確な詳しい情報を要求できるようになり、それがなければ拒否することができるようになった。これによって現行の貿易慣行の多くを改善できる。

損害賠償は可能か

 現在、すでにGMの複合的交雑が進行しており、特定の企業のGMだけが汚染をしているということがいえない状態になっている。汚染をみると常に複数の企業が開発したGMが遺伝子内に混在しており、汚染を受けた農家が汚染の賠償を求めようにも企業が特定できないし、植物体から検出されるGM構造も特許を取った時点のものとは違っている場合の方が圧倒的に多いことが予測される。

 これは、賠償制度ができたとしても、特許のあるGM構造とは異なっており、かつ複数の企業のGMが関係しあっている汚染に対する賠償をどう取り扱うかという課題に対し、開発企業側が自社の限定されたGM構造のみを特許対象とするということで賠償を逃れるすべになると思われる。GMは植物体と分離することはできず、回収が事実上不可能であることから、これらを勘案した賠償制度が必要となる。


GM汚染のモニターと通報義務は、農家ではなく開発販売企業にすべき

 農家は、特許を受けたGM品種が確認されたら直ちに特許保持者に通報し撤去を求めなければならないのだが、汚染される側にこのような監視義務を要求することはまちがいである。本来なら、特許を持つものが利用者以外のところに漏れ出ないような対策を講じて販売し、かつ監視すべきところだ。

私たちの選択

 これまで市民側の闘いで最も有効だったのは、「買わない」ということだった。署名も集会も検査活動も、買わないようにするための手段だったと思う。いらないといいながら、現実には今でも大量のGM原料を輸入し消費し続けている。これは、開発側に二つのメッセージを送っていることになる。「GMは反対だが買うのは止めないよ」、ということだ。「いらない」と「買わない」をいかに一つのメッセージとして伝えるかが、今後の目白押しのGMを阻止する鍵になると思う。食生活の大部分を企業に乗っ取られた今、私たちの選択が未来を変える。

 今、巷には、「GM大豆は使っておりません」という表示があふれているが、これらの原料大豆はほとんどがアメリカ産だ。
 日本も近々汚染の問題が現実に確認されるだろう。その時どうするか。GM推進国であるカナダの今回の判決は参考になるだろうか。今から、「不買」という実効ある対応を取れるようにしておくのがよいと考える。


こぼれダネ自生をどうする?

 鹿島港周辺の自生したGMナタネが今後その汚染範囲を広げてゆくことが考えられる。防ぐ方法としては、毎年続けてナタネは栽培しないことと、自生しているものを刈り倒すことだろう。農水省がサンプル調査を行う手間を、刈り倒しに使えばよいのだが、それが叶わなければ、市民が出向いて刈り倒す労をとる必要がある。

 輸送中に種子がこぼれないようにする工夫も必要だ。根絶が確認されるまでは、ナタネ栽培を控え、確認後も、種子の検査を行った場合のみ栽培ができるようにする必要がある。

 また、ナタネ油はもともと食用ではなく、灯明の燃料としての利用が中心であった。ところが、大量の安い油によって天ぷらや炒め物揚げ物の食文化が構築されて、日本食に欠かせない食材になった。食用油とキャノーラ油については後日述べることにするが、この、栄養的な問題点も多い食用油という食材を見直し、利用しないようにすることがGMナタネを根絶する最も良い方法ではないだろうか。

> このページの先頭へ

 書籍紹介

 日本有機農業研究会では、設立以来、有機農業関係の基礎的な資料や書籍を発行してきました。一部を除き、一般書店ではお求めできないものです。
 ご注文は、郵便為替用紙、または、メール・FAXのいずれかの方法でお申込いただけます。

書籍のリストと購入方法はこちらへ

  _______________________

  _______________________

  _______________________