JAPAN ORGANIC AGRICULTURE ASSOCIATION

日本有機農業研究会

 シュマイザー裁判 ついに最高裁判決
 「特許権侵害」を僅差で認める

日本有機農業研究会 『土と健康』04年8・9月合併号 市民セクター政策機構 清水 亮子

七年越しの裁判に幕

 除草剤ラウンドアップに抵抗力を持つよう遺伝子組み換えされた「ラウンドアップレディ・ナタネ」(以下RRナタネ)の特許権をめぐって、カナダの農民パーシー・シュマイザーさんとモンサント社との間で争われていた裁判で、カナダ最高裁は2004年5月21日、シュマイザーさんに敗訴の判決を下した。自家採種した種子から育ったナタネを販売したことが、特許権侵害に当たる。最高裁の下した判決は、あまりにもショッキングなものだった。

突然、巨大企業に訴えられる

 この裁判は、一九九八年、カナダ中西部サスカチュワン州で自家採種と品種改良を続けてきたシュマイザーさんの畑にモンサント社が開発したRRナタネが見つかったことから、同社がシュマイザーさんを連邦裁判所に訴えたことに始まる。同社は、RRナタネの除草剤耐性遺伝子とそれを含む細胞は自社の「発明」であるとして、特許を取得しており、シュマイザーさんが技術使用料を払うことなくRRナタネを栽培したのは特許権侵害と主張。しかし、シュマイザーさんは、RRナタネの種子を購入したことも蒔いたこともなく、RRナタネの種子が運搬中のトラックから畑に落ちたか、あるいはシュマイザーさんの育てていたナタネが交雑したのだと考えられると反論した。にもかかわらず、01年3月の連邦裁一審、そして続く02年9月の連邦控訴審ではともに、シュマイザーさんが敗訴。シュマイザーさんは、ここであきらめることなく、裁判を最高裁に持ち込む道を選んだ。

敗訴、しかしモンサント社への損害賠償は免れる

 そして、ついに迎えた最高裁の判決。シュマイザーさんがRRナタネを栽培、販売したことは、モンサント社が特許をもつ「発明」を「使用」したことに当たる、よって「特許権侵害」、という判断が下されたのだ。しかし、この特許権の「使用」から得た利益はない、つまり従来のナタネの販売から得る利益と変わらなかったことが認められ、連邦控訴審が求めていた技術使用料の支払いは免除。訴訟の費用もモンサントとシュマイザーさんとで各自かかった部分を負担するという判決となった。

 カナダ最高裁には9人の裁判官がいて、多数決で判決が下されるが、この裁判では5対4と裁判官の意見は真二つに分かれた。裁判で注目されたのが、@開発企業に対し植物全体と種子にまで特許権を認めるのか、A汚染に気づかず栽培してしまったケースにまで特許権を認めるのか、B農民が自家採種する権利と企業の特許権のどちらが優先されるのか、といった点だった。残念ながら、Bについて今回の判決は言及していないので、@Aについて少し詳しく見てみたい。

特許は植物全体に及ぶ?

 ハーバード大学の開発した実験用の「ハーバード・マウス」(ガンの成長が速くなるよう遺伝子操作されている)の特許権をめぐる裁判で、カナダ高等裁判所は02年、「いかなる高等生物にも特許権は認められない」という判決を下した。この判例に従えば植物・種子など高等生物には特許が認められないことになる。しかし今回の判決では、特許は遺伝子・細胞レベルまでとしながらも、その遺伝子・細胞を含む植物を収穫して販売することが特許権の侵害に当たる、という判断だった。判決文には「遺伝子・細胞に関する特許権を保護することによって、植物に関わる活動に影響が及んだとしても、特許の有効性には関係ない」とも書かれている。RRナタネを育てて販売することが、この遺伝子という「発明」を使用したと解釈されれば、実際のところは、植物全体に特許が与えられているのと何らかわりない。この考え方に立てば、特許のある遺伝子を組み込めば、どんな植物・動物であれ、その全体に対する支配権を手に入れることができることになってしまう。

汚染に気づいていれば訴えられる?

 最高裁は、シュマイザーさんはRRナタネの混入を「知っていた、あるいは知っていたはず」という連邦控訴審の判断をそのまま採用した。混入率については、モンサント側の95〜98%という高い数字を採用し、判決は、シュマイザーさんが97年に収穫した種子への混入を知っていて、RRナタネを分別・保存し、98年に栽培した、という内容になっている。シュマイザーさんがマニトバ大学に依頼して調べた混入率は0〜67.2%であったことから、この点は不当な判決、とシュマイザーさんの支援者たちは怒りを露わにした。

 しかし、知っていた・知らなかったという点に限って言えば、シュマイザーさんは畑のへりの雑草の防除にラウンドアップを使った際、枯れないナタネがあったことから、汚染には気づいていた。ここで私たちがはっきりさせておかなければならないのは、この判決が「知らずに栽培してしまった」ケースについての判断ではない、ということだ。畑の汚染を見つけては農民を訴える、というモンサントの手口を正当化する根拠には、この判決は全くなりえない。

今後の闘い

 シュマイザーさんは判決後、「モンサントに一セントたりとも支払わずにすんだのは、私個人にとっては勝利です」とほっとした表情を見せた。裁判を支援してきた日本の人びとへは「日本のみなさんの支援のおかげで、この訴訟を最高裁にまで持ち込むことができました」というメッセージをいただいた。

 シュマイザーさんは昨年6月に来日し、自らの身に実際に起こったことについて、10カ所で講演した。世界中では50カ国近くを講演して歩いたと聞く。シュマイザーさんが闘い抜いたことで、遺伝子組み換え作物の問題点が世界中に知れ渡った。この点での彼の功績は計り知れない。

 企業が植物全体に対する権利を主張するのであれば当然、汚染に対しても、企業が責任を持つべきだ。鹿島港周辺に自生するGMナタネが見つかり、大問題になっているが、こういった野生化を含む環境汚染について、開発企業に回収や賠償を義務づける必要がある。

 カナダでは全土にRRナタネが自生して雑草と化している。種子の汚染も進み、有機農家はナタネを輪作のローテーションから外さざるを得なくなった。サスカチュワン州の有機農業者団体SODはモンサントとバイエルを相手取り、ナタネを育てられなくなったことに対する損害賠償を求めて02年に集団訴訟を起こしている。この裁判の動きも、今後、注視していかなければならない。そしてなにより、シュマイザーさんが私たちに残していったカナダでの教訓を、強く心に刻み続けなければならない。



【読んでみよう】

『GM汚染 多国籍企業モンサントと闘うシュマイザーさんからの警鐘』
 シュマイザーさん全国講演の全容とシュマイザー裁判を掲載したブックレット
 編著 天笠啓祐
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 電話 03−5155−4756
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