JAPAN ORGANIC AGRICULTURE ASSOCIATION

日本有機農業研究会

 遺伝子組換え作物 国内栽培に反対する全国のうねり

日本有機農業研究会 『土と健康』04年1・2月合併号 科学部 安田 節子

各地で相次ぎ野外栽培試験

 商品化に向けた開発では先頭を進んでいた愛知県農業試験センターとモンサント社が共同開発した除草剤耐性組み換えイネは、全国的な反対運動により二〇〇二年一二月、開発中止に追い込まれた。

 しかし、二〇〇三年四月三日、農林水産省は、岩手県北上市の財団法人岩手生物工学研究センター(以下、岩手生工研)が開発した耐冷性イネの屋外圃場での生育実験を認めた。四月二八日には、北海道農業センターが、トウモロコシの遺伝子を導入したイネ(光合成活性化による高収量品種)の一般圃場試験を始めた。また、茨城県つくば市の農業環境技術研究所では、イネの遺伝子を導入したトリプトファンを高蓄積するイネの隔離圃場での試験栽培を始めている。香川県善通寺市にある独立行政法人近畿中国四国農業研究センター四国研究センターでは、農水省の委託を受け、縞葉枯れ病ウィルス抵抗性の遺伝子組み換えイネの野外栽培試験を行って今年で三年目になる。

 高まる消費者の反対から日本企業が軒並み組み換えイネ開発から撤退しているにもかかわらず、国の機関が税金を使って主食のコメの組み換え開発に地道をあげ、地元の反対を押して野外栽培に踏み切っている。いずれも地元説明会では、「これまでとは違う生産者メリット、消費者メリットがあるものを開発、商品化は考えていない、実証試験をしたいだけ」と弁明している。

不必要な遺伝子組み換え品種

 商品化しないなら、野外栽培実験で汚染を引き起こすリスクを冒してまでの開発は必要ないはず。岩手生工研は耐冷性品種を作り出すというが、問題のある組み換え技術によらなくてもこれまで品種交配でやってきたではないか。北海道の場合、減反強化がされている今、これ以上の高収量品種の開発が急がれる理由がない。それに、イネに大きな負荷を与え、どんな結果を招くか予測できない。「生物的に弱まると自家受粉植物の他家受粉率が急速に高まる」(筑波大名誉教授生井兵治氏)との指摘もある。つくば市の農業環境研究所のイネは健康食品目的だったが、うまくトリプトファンが蓄積せず、家畜飼料用に目的を転向したというが、その程度のものである。

 「これまでと違って植物やイネからの遺伝子を導入しているから」と、ことさら安心感をアピールするが、組み換えに当たって実際には、マーカー(目印)として抗生物質耐性遺伝子はじめいろいろの生物や微生物由来の遺伝子を組み合わせたものが導入されている。植物遺伝子を使ったとしても、組み換え技術がもたらすリスクがなくなるわけではない。

 また、主食の米まで遺伝子組み換えを食べるということになれば、それは日本が壮大な人体実験場になるということだ。そして唯一自給している米が、遺伝子組み換えによって汚染される事態になる。国民が望まない、国土に取り返しのつかない事態を招くようなことに多額の税金を使って開発を強行する農水省の姿勢に怒りと批判が高まっている。これまで全国的に署名活動が展開され、試験場の地元では交渉が繰り返されてきた。

岩手で全国集会――画期的な中止を勝ち取る

 一一月二八日、盛岡で「遺伝子組み換え作物いらない全国集会」が開催された。日本有機農業研究会も主催団体一三のひとつに名を連ねた。岩手県と島根県は遺伝子組み換え開発予算が一番多くついているところ。岩手生物工学研究センターは岩手県が一〇〇%出資している。その県庁所在地、盛岡に全国から四五〇人が集った。私も横浜の仲間二人と参加した。集会後、市内を県庁までにぎやかにデモをして歩き、この日までに全国から集まった「遺伝子組み換え稲の研究・開発中止を求める署名」四〇七、二一二筆を岩手県農林水産部に提出した。その時、農林水産部長は、北上市にある遺伝子組み換えイネの野外実験を、当初の二年計画の予定を短縮して、今年一年で中止すること、さらに、今後一切遺伝子組み換え稲等の野外実験を行わないことを明言した。市民の画期的勝利であった。

 集会での生活クラブ生協・岩手の取り組み報告では、「耐冷性」「イネの遺伝子をイネに」ということで当初意見が分かれたが、学習を重ね、「疑わしきは使用せず」「環境汚染は論外」の視点で、遺伝子組み換えに頼らない農業と食料の基本政策に立ち返る判断ができたという。冷害に見舞われるなかでパーシー・シュマイザーさんの講演集会が成功し、生産者の立場からも組み換え拒否の共有がはかれたという。交渉の過程で、導入されるのがイネの遺伝子だけではなかったことも判明。県下の生協が連携し、運動を高めていった。

 「岩手県に遺伝子組み換えイネの研究・開発の中止を求める意見書の提出」を求める請願が水沢市議会で採択され、これが実行された。地元のこうした運動の積み重ねが功を奏した結果と思う。

香川・北海道での取り組み奏功

 香川県善通寺では、組み換えイネの作付け実験が明らかになった時点で、地元の生協を中心に素早い取り組みが行われ、交渉・署名集めの結果、三年間の実験は今年で終了し、今後は行わないという回答を引き出している。

 北海道は地元説明会で住民の納得を得られなかったにもかかわらず、説明会翌日に田植えを強行して強い批判を浴びた。一二月九日、道は遺伝子組み換え作物栽培を条例で規制する方針を発表。二〇〇四年一月にガイドラインを策定し、道への届出や周囲住民、農協などの同意を得ることを生産者に義務付け、花粉の飛散による交雑や他の作物への混入防止をうたう。自然環境への影響が懸念される場合、知事が栽培中止を生産者に勧告することも盛り込む。栽培規定条項を盛り込んだ「食に関する条例」(仮称)の二〇〇五年四月施行をめざすことになった。北海道も市民の思いが実った。

自治体議会での意見書採択を

 残るは、茨城県つくば市の農業環境技術研究所だ。来春の組み換えイネの野外栽培をなんとしても止めなければならない。バイオ作物懇話会の大豆作付け、そしてモンサント社の実験圃場もある。組み換え大豆にしろ、イネにしろ、野外栽培が一カ所でも行われる限り、日本は、遺伝子汚染の危機の瀬戸際といえる。

 なお、茨城県では地元の人たちの働きかけで、一二月一二日水海道市議会が「遺伝子組み換え作物の栽培禁止を求める意見書」を採択、続いて一八日谷和原村議会でも採択された。

 このほか、すでに神奈川県綾瀬市、茅ヶ崎市の意見書採択、また安全食品連絡会が和歌山・橋本市議会に出していた「橋本市内において遺伝子組み換え作物の栽培禁止を求める請願」が一二月一二日に採択されている。グリーンコープを母体とする福岡ネットワークが北九州の二つの市議会で組み換えイネに関する請願を採択させたと聞いている。

カルタヘナ議定書の発効に伴う国内措置の指針の見直しを

 なお、生物多様性条約カルタヘナ議定書の発効に伴う国内措置として、二〇〇四年二月に国内法が施行される。遺伝子組み換え生物が野生生物種に悪影響を与えないよう規制するものだ。しかし、これまでの交渉から、農水省は栽培作物は野生生物種とは別との見解に立ち、しかも流通を認めた組み換え作物は基本的に安全であるとの認識に立っている。住民や農協の理解を得るための説明は必要だが、学術的データに基づいて一定距離をとれば、一般作物への万一の交雑はあっても問題ではないと考え、栽培を前提にした栽培指針を作ろうとしている。一二月二二日に開催された農水省技術会議の検討会で隔離距離としてイネは二〇メートル、ダイズ一〇メートルとする素案が示された。二〇〇四年二月二三日の検討会で最終ガイドラインとして決定する。当面の最優先取り組みとして指針内容の見直しを迫らねばならない。

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