JAPAN ORGANIC AGRICULTURE ASSOCIATION

日本有機農業研究会

 茨城県谷和原村の遺伝子組み換え大豆汚染阻止行動をめぐって

日本有機農業研究会 『土と健康』 03年8・9月合併号 科学部 安田 節子

一般農地にGM大豆を作付け

 「バイオ作物懇話会」(長友勝利代表・宮崎県)が、モンサント社のラウンドアップ(除草剤)耐性組み換え大豆を各地の生産者に作付けさせる活動を始めて三年目になる。一昨年は全国で九カ所、昨年は六カ所、農家の一般農地に作付けを行ってきた。

 「バイオ作物懇話会」の実態は不明だ。モンサント社の組み換え種子が無償供与されていることや農家に土地の使用料、作付け料などを払って作付けを指導していることから、モンサント社との関係を疑わせる。

 これまでの作付けでは、生育中にラウンドアップを散布して耐性効果を見せるのが目的で、開花前には刈り取らせていた。これはモンサント社の意向で、種子(特許がかかっている)を採らせないための措置ではあったが、幸い、花粉による周辺作物への遺伝子汚染はなくてすんでいた。

 今年は全国で一カ所、茨城県谷和原村の農家が、周囲への説明や、同意、報告もないままに作付けしていたことがわかった。これに対し、七月二三日、「つくば環境と人権のための市民会議」と「遺伝子組み換え食品いらない! キャンペーン」が主催する集会「植えたらオシマイ! 遺伝子組み換え大豆を見に行こう!」が、谷和原村公民会で開催された。

七月二三日、畑を視察

 「遺伝子汚染とシュマイザー事件」の講演などの集会の後、参加者たちが、当該畑に見に行ったところ、すでに一部に花が咲いているのを目にした。地元の仲間が、作付けした当該農家(地主)に直接聞いたところ、長友氏より今年は開花させ結実まで行うよう指導されていることがわかった。だが、地元の農家や消費者は、一切そのことを知らされていなかった。

 農水省は、昨年一一月、「安全性が確認された組換え大豆を栽培の場合の留意点について」という文書を各地の農政局および日本モンサント社に出し、「栽培に当たっては、事前に周辺地域、住民の理解を十分に得るとともに、都道府県の大豆の生産流通担当部局、JA等の関係者に事前に情報提供を行う」、また、「種子の提供に当たっては、生産・流通上の混乱を招かないための交雑・混入防止等の措置について十分に徹底すること」を求めている。

 そこで、中村敦夫参議院議員に依頼し、急遽七月二五日に農水省を呼んで、谷和原村ですでに遺伝子組換え大豆が開花し、交雑防止措置がとられていないので刈り取りを指導するよう申し入れた。農水省は、文書は「指導」ではなく、あくまで「お願い」であるからと逃げたが、最終的に、農水省主催で谷和原での関係者協議をもつことを約束。しかしこれは、翌二六日下記の経緯により刈り取られたことを理由に反故となった。

緊急に花粉飛散防止行動

 地元では、遺伝子汚染や風評被害を懸念して二三日に結成された「遺伝子組み換え作物いらない! 茨城ネットワーク」やJAなどが、バイオ作物懇話会の長友氏と作付け農家に、刈り取りを申し入れたが、処分期限の七月二五日になっても刈り取りを拒否。二六日(日)午前中、不織布のシートで覆うことを作付け農家に申し入れ、同意を得て、作業にとりかかるも、強風のため断念。参加者の解散直後、強風で花粉が周囲に飛散している状況を見るに見かねた人達によって、組み換え大豆はトラクターで土中に鋤き込まれた。この行動が一部マスコミに取り上げられたが、経緯が正しく報道されているとはいえない。

八月三日、全国集会を現地で開催

 「遺伝子組み換え作物いらない!茨城ネットワーク」は、八月三日、谷和原村での緊急全国集会を開催した。集会名は、「遺伝子組み換え作物の国内栽培反対! わたしたちの作物、食を組み換え遺伝子で汚染させないための集会」。全国から一〇〇名近くの人が集まり会場は満席。参加できない組織・個人からは、多数の支援メッセージが届けられた。

 遺伝子組み換え実験用のつくばP4施設の建設反対運動(一九八二年)の時から遺伝子組み換えの監視活動を行ってきた「つくば環境と人権をまもる市民会議」の中島スミ子さんの挨拶に始まり、JA職員、農家、生協などから力づよい挨拶が続いた。

 「この地は、納豆に向く『納豆小粒(しょうりゅう)』という品種が有名。遺伝子組み換え大豆の畑をみて、ひじょうにショックを受けた。大豆産地のまん中でつくっている。狭い日本、どこにつくられても同じ。汚染されたら大変だ。国産大豆には二つしか強みがない。一つは、ポスト・ハーベスト農薬フリー、そして遺伝子組み換えでないということだ。大豆は、一番だいじなたべものである。生産者の問題、自分の問題として、この遺伝子汚染の問題に取り組んでいきたい。」

 「きょうは、いつも通り、静かに野菜づくりをしていたかった。だが、こうしてこの集会に出席している。種子の汚染はおそろしい。これは、取り返しがつかない。花粉飛散防止もせずに栽培していたことは、許せない。これは、いのちを侵されていることだ。民族として、人としての尊厳と誇りを守る闘いである。」

刈取り前後の経緯

 常総生協の大石光伸さんの経過説明によると、今年五月に、「つくば環境と人権をまもる市民会議」は作付農家(農地の持ち主)と交渉、六月には、地元の谷和原村役場の産業振興課長が電話で農地の持ち主に作付中止要請をおこなっている。それにもかかわらず、六月一〇日、バイオ作物懇話会は大豆の播種をした。

 六月二三日、農林水産先端技術産業振興センター(STAFF)の参与と同つくば研究所の職員が、茨城県農政課(水戸市)を訪問し、バイオ作物懇話会の組み換え大豆栽培について報告をしている。県は三人の職員で対応、播種された大豆について、「開花前に刈り取る」旨の発言があったことを記録している(なお、STAFFは農水省所管の社団法人だが、谷和原村の作付け農家に口利きをしたのがSTAFF職員であり、またその畑の見学会を行うなどバイオ作物懇話会と一体となった活動が問題視されている)。ところが長友氏は、七月二五日のやりとりで、「枝豆と雑草の二次発生(スーパー雑草の確認)の時期まで検証する」と、開花前の刈り取りを拒否したという。

 大石さんたちは、組み換え遺伝子の飛散防止措置について、再三にわたり、農林水産省や当事者に交渉をしてきた。本来の責任の所在がどこにあるかは明らかである。そのことを全国集会で明らかにし、二六日の行動も、個人的な問題でなく、茨城の、全国の問題であるという世論を形成し、全国が注目するようにしていきたい、と述べた。

在来のかけがえのない種子を守る

 日本有機農業研究会の魚住道郎さんは、基調報告で、「花粉の飛散は、遺伝子組み換え作物による遺伝子汚染の始まり。国内には各地に、特産の大豆がある。在来品種はかけがいのない先祖からの贈り物。それらの種子に混入、汚染があれば、もう取り返すことはできない」と、茨城特産の納豆小粒大豆や青大豆などを持参して次のように発言した。

 魚住さんは、昨年からミツバチも飼い始めたという。

 「ミツバチの行動半径は、二キロメートルといわれている。花粉は、虫、風、生息する野鳥などにより運ばれる。ミツバチは、大豆が好きかどうか、というと、あまり好きではなさそうではあるが、蜜を吸う。花粉をつける。ミツバチだけで、半径二キロメートル飛ぶのだから、その範囲が汚染される可能性を否定できない。農林水産省との交渉では、ミツバチによる自然交配は、〇・五〜一%であると認めている。花粉の飛散だけでなく、虫で持ち出されることにも大きな不安がある。ところが、農林水産省、STAFFは、このことについての危機感がみられない。」

 「地域に根ざしたたくさんの品種があるが、これをちゃんと実らせるのは、結構むずかしい。信州でできる品種を、茨城にもってくるとうまく実らない。千葉のものも、八郷では実らないことがある。地域に固有の品種がある。先祖が地域に残してくれた財産である。

 モンサント丹波の黒豆、モンサント青豆などと、そんなことは、誰も望んでいない。今回の、捨て身のかけがえのない種子を守ろうという行動も、生産者の生活、その基盤を、モンサントのもうけのために、くずされたくないという思いからだ。種子は、いのちのかたまり。ぼくらが糧にしている納豆、豆腐になる大豆を汚染させてはいけない。」

 「大豆の花粉の生命は、六日間である。土中に埋め込んでも、土壌微生物との関係はどうか、どういう影響があるのか。土壌細菌から取り出したという遺伝子は、土壌細菌に持ち込まれる可能性はないのか、まだわからないことは多い。」

 「先祖が営々とつくり守ってきたかけがえのない種子を、ぼくらが作りつづけていく使命がある。よけいな組み換え作物をつくらないでほしい。試験栽培は一時中止。国内作付けは即刻、止めなければいけない。」

バイオ立国は虚妄、農的社会をめざそう

 続いて、集会に参加した中村敦夫参議院議員は、「経済発展のためバイオ産業という新事業を立て、技術革新を金科玉条のごとく扱う国策は疑問」「利益のために競争をする時代は終わった。二一世紀は、生命、環境を守るという根本的認識が必要。このままでは農業が不可能になる。もっと自然をだいじにした農的社会をつくらなければならない」と訴えた。

 また、遺伝子組み換えについて、「レタスにネズミの遺伝子が入っている。そうした社会を望むのかどうか。もっともっと慎重にならなければならない。遺伝子組み換えがなくて十分にできる。何万年もの歴史を受け継いでいるからだ」と述べ、「競争で勝つのは、一握り。これは、一人勝ちの世界である。歴史にかつてないほど、開きがでている。これを世界的にみるとトップ二〇〇人のかせぎが、二五億の人と同じ。このことが、農業にも起こり始めた。モンサントは、除草剤と種子をセットで売る。市場を支配し、独占する」と警告し、「子孫たちに地球の大切な財産を残すための世紀にしよう」と呼びかけた。

 安田からは、「在来種子は人類の共有財産、公共財であるにもかかわらず、WTOルールでは特定企業の知的所有権という権利の方を上に置いて私物化を認めている」「モンサント社の狙いは、日本で売れるはずのない組み換え大豆の商品化ではなく、国内に遺伝子汚染を引き起こすことで、消費者に国産一〇〇%大豆の選択権を諦めさせることではないか」「生命体は自己増殖するので、遺伝子汚染は年数を経るごとに増えていく」と危機感を表明した。

 集会後、当該畑を見たが、わずか数十メートル離れた数カ所に大豆畑があり、風が吹けば花粉が運ばれ、交雑の可能性があったこと、当時開花がすでに始まっており、花粉汚染のぎりぎりの限界だったことが推測された。

茨城がだめなら、滋賀で作付け?

 JAは、組み換え作物を扱わない決定をしている。各世論調査で組み換えを食べたくない消費者がほとんどだ。商品化しても売れる状況にはない。なぜ一般農地での作付け試験を進めるのか。モンサント社はバイオ作物懇話会を使って、日本に組み換え遺伝子汚染を引き起こそうとしているとしか思えない。

 再度、八月七日と一三日に菅野哲雄衆議院議員、北川れん子衆議院議員のへの説明会という形で、農水省との話合いが行われた。

 一三日の交渉で、今年の作付けは谷和原だけなのか、他では行っていないのかを質問したところ、農水省は滋賀県中主町で作付け中であることをしぶしぶ明らかにした。

農業の未来は?

 農水省は八月一日に「バイオ作物懇話会」長友氏から谷和原の鋤きこみが行われた七月下旬に滋賀県中主町で組み換え大豆を二〇a作付けしたことを聞いていたこと、ここでも「枝豆までやる」と長友氏は言っているとのこと。また、同時期、岐阜県瑞穂市でも二〇aの作付け播種が行われたが、県が栽培者を指導して断念させ、水を入れて腐らせる措置をとったことも明らかにされた。おそらく岐阜県は隣の愛知県での組み換えイネをめぐる反対運動を知っていたので未然防止措置を採ったと思われる。

 聞かれなければこの事実を隠したままでいようとした農水省、汚染防止の具体的措置をなにも示さないまま、次々と問題が各地で引き起こされるのを見過ごそうとしているのは行政の不作為に当たる。そして協議の最後に、「バイオ作物懇話会」の活動をパブリック・アクセプタンス(消費者の受け入れ)への方策として評価すると発言。農水省は、日本農業にどのような未来を描いて仕事をしているのだろうか。

 日本の農業が米国型農業をめざすことでは進路を誤まる。消費者の支持のない作物、回復不可能な環境汚染、在来種子の喪失、有機農業への汚染などを招く。GM作物を放置すれば、そのような事態が起きるのは必至だ。そのことの重大性を理解しなければならない。

 市民が自らの意志を結集して作付け阻止の活動を!

 その後、滋賀県は、中主町の作付けに対し、「次世代に責任を持つため」、鋤き込むように説得するなどすばやい対応をしました。

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