JAPAN ORGANIC AGRICULTURE ASSOCIATION

日本有機農業研究会

2002年10月29日 東京集会 ジョゼ・ボベは語る
 ―グローバリゼーションとどう闘うか

日本有機農業研究会 『土と健康』 03年1・2月合併号 (テープ起し)田中徹二
(ATTAC JAPAN)

 みなさま、こんばんは。
 先ほど伺っていたことでよく解ったのですが、日本の農業の状況というのは世界中で見られる状況とほとんど同じだと思います。地球上いたる所で同じ帰結がもたらされているということ、これは同じ原因によるものです。みなさんが日本で経験されている状況というのはフランスで我々が経験している状況でもありますし、南アメリカ、そしてアフリカの農民達が経験している状況と同じです。農民達を土地から追い出すロジツク、食品の質を悪化させるロジック、そして環境を悪化させるロジックです。こうした帰結をもたらす理由は、今日一つの名前をもっています。それは他ならぬWTO(国際貿易機関)です。

WTOが農家を崩壊

 今日、WTOが行おうとしていることは、農民による農業を破壌して多国籍企業のアグリピジネスに道を開こうとする政策です。また、WTOが行っていることは、さまざな法規を設けてそれぞれの国が自らの農業で生き続けるということを阻害することに他なりません。それは国境を開き、そして必要がないにもかかわらず、それぞれの国が食料を輸入しなけれならないような状況に追い込んでいます。今日、何を強制しているかというと、それぞれの国が(生産)コスト以下の値段で食料を輸入することです。おおよその国が自分たちの食料を生産できるにもかかわらず、(安価な)グローバルプライスを設けることにより食料を輸入させるということにほかなりません。このことによって利益を得るのは一握りの食料輸出国と多国籍企業のみなのてす。

 また、様々な国に関税障壁を低くすることを強制しています。そして自らの国の農業を支えることを禁止するわけです。この論理は1986年GATT(=関税及び貿易に関する一般協定)のウルグアイラウンドの枠組みの中で決定されました。WTOの設立とともにこのプロセスは加速されました。

 今日行われているのは、それぞれの国の農業生産を被壊すること、ダンピング価格で生産される食料を輸入させるということです。その被害者となるのは単に農民だけではなく消費者も被害者ですし、そして環境も被害を受けます。ただし最初に被害者になるのは農民です。というのは農民は自らの土地を手放さなければならなくなるからです。

 至るところで(自国農業を守れという)政治家の主張にもかかわらず農業政策が破壊されています。農民たちが売って得た収入だけでは、生産を続けることを許してはくれないからです。収入を保障する、あるいは収入に補助を与えるという政策はWTOのルールによって禁止されています。ところが一部の国々、アメリカとかヨーロッパにおいては環境を保護するという名目で、実は農業生産への補助金が支給されています。それによってダンピング価格で他国への輸出が可能になっているのです。このようにして昨年アメリカは農業補助金を七〇パーセント増額しました。そして同時に他の国々に対して農業に対する補助金を減額せよとか、関税障壁をなくすようにとか強制しています。アメリカがこうした農業製品を売ることによって追求している目的は、地球に対する帝国主義的な支配に他なりません。さらに、食料援助というのは輸出の偽装された形に他ならないのです。

 今日明らかなことは、こうしたシステムを変えなければならないこと、さもなけれぱ農民達は消滅してしまうということです。明らかなことは食料主権という考え方、つまり自国の生産物で自国の人々を養うという権利−それは全ての民族にとって失うことのできない権利であるということは明らかです。許しがたいことは、WTOのようなシステムが自分達の国の生産物で自国の人々を養うことを妨げることです。

 今日においてもまだ世界の労働人口の約五〇パーセントは農民なのです。ところがWTOの目的というのはこの農民の大部分を消滅させて、一握りの多国籍企業に食料生産を任せるということに他なりません。ところがこの政策は地球という星の生態的均衡にとって自殺的な政策です。というのも、そこで余った農民達をどうしようというのでしょうか? 五千万人、あるいは一億人の都市をいくつもつくってそこに収容しようというのでしょうか?

 中国がWTOに加盟しました。これはどういう帰結をもたらすのでしょうか? 今分かっていることは、二億五千万人の農民たちが離農しなければならないということです。ところが現時点でもすでに一億八千万人の中国の農民たち、元農民達が住む所もないような形でさまよっています。

WTOは農業から出ていけ!

 ここで我々が直面しているのは一つの選択です。私の選択―農民として、農民組合員としての選択―というのは次のようなものです。それはすなわちWTOは農業から出て行かなけれぱならないということです。そのために我々はそれぞれの政府を相手にして闘わなければなりません。そして政府を大きな議論に引き込まなければならないのです。

 非常にスキャンダラスなことがあります。それはフランスにおいても日本においでもアメリカにおいても、市民がWTOに関する問題において発言権をもっていないことです。我々は自由貿易のルールを強制的に押し付けられます。市民どころか国会議員も発言権をもっていないわけで、WTOの枠内で決められた政策に誰も異議をとなえられないのです。このようにWTOという極めて非民主的な組織が地球の未来を、農民の未来を、そして市民の未来を決定してしまうのは受け入れ難いことです。

 農民を撃うこの運命は、例えば賃金労働者に関しても同じことです。それは社会的なダンピングの構造が作られてしまって、その賃金労働者は解雇され、その代わり組合権などをまったくもたない労働者が雇用されるという状況がみられるます。

 現在の支配的論理というものは、規制緩和の論理です。社会的な保護の一切を破壊するという論理です。それによって市民とか農民達も被害を受けています。そしてWTOが目指しているものはそうしたものを全て解体して、弱者をさらに弱くすることに他なりません。

 WTOは一九九五年に設立されました。それ以来豊かな人々と貧しい人々との格差はかつてなく増大し続げています。そして資本もこれまでになく少数のところに集中しています。世界で最も豊かな三人の株主、つまり巨大企業のオーナーの収入は最貧国の四〇ヵ国の国内総生産を足したものを上まっています。そしてこの四〇ヵ国で何人の人が住んでいるかというと、六億人です。したがってWTOの政策はいったい誰のための政策なのか、ということを問わなければなりません。そして世界中でますます多くの人がたち上がってこの支配の論理、商業化の論理に立ち向かっています。こうした流れに抵抗すること、これは今日単なる選択の問題ではなくて、義務の間題になっています。

種子の多様性を守ろう!

 今日脅かされているのは社会的均衡ではありません。それどころか人類の資産そのものが脅かされています。たとえば水というものが商売になっているのです。フランスの「ピバンディ」という会社は水を商業化しようとして虎視眈々と狙っています。というのも「ビバンディ」は、水という資源はますます希少化することを見通しているからです。大気も脅かされています。この地球にまったく幸福をもたらさない化石燃料の浪費によってです。土壌も例外ではありません。土壌を汚染する原因が工業的な農業である場合もありますが、他には道路であるとか過度な工業化といったことによります。それによって何百万ヘクタールもの土壌が汚染され、そしてコンクリートとかコールタールによって覆われてしまっているのです。

 そして最終段階とも言えるような形で脅かされているのは、生物多様性の破壊という問題です。今日ブラジルとかアジアで見られていることは、木材に対する投機的な買い付けのために森林が脅かされています。その運鎖によって動物種、植物種がいくつも脅かされています。

 今日WTOによる非常に皮肉とも言うべき最終段階というのは、生物多様性を特許化することにより人質にとってしまという事態です。今日見られるのはこの生物多様性に対する一種のホールドアップという事態です。それは巨大な製薬メーカー、そして農業化学メーカーによって行われています。こうした生態の特許化によって巨大企業が何をしようとしているのかというと、単に植物や動物のゲノムを特許化するということではなく、人間のゲノムまで特許化して私物化しようとしているのです。こう申し上げるとSFのようだというふうにお考えになるかもしれませんが、そうではなくて現実であるわけです。例えばトンガ王国ではオーズトラリアの製薬メーカーが人間のゲノムを買ってそれを操作して薬品を開発しようとしています。

 農業においてはこうした生命体の私有化というのは一つの名前をもっています。すなわち遺伝子組み換え作物です。このような植物をめぐる特許を通じて多国籍企業の四社ないし五社が、世界中の全ての種子産業を牛耳ろうとしています。この特許化の論理を通じて何を行おうとしているのか。それは、従来は農民は自分が収穫したものを翌年また蒔くという行為をしてきたわけですが、そうではなくて毎年同じ企業で種子を買わせようというのです。

 多国籍企業にとって我慢ならないことは、土の中でその種というのがまた翌年できるということです。生命体に対する特許化というのは、多国籍企業が農民をホールドアップさせるためだと言うことができます。一つの例えをいえば、ローソクのメーカーがあったとします。このローソクのメーカーがもっと儲けるために、日本の住民全員に窓を絶対に開けてはならない、閉めていなければならない、というふうに言ったのと同じだということです。というのは太陽の光はただだからです。現在の状況というのは、禁止されたにもかかわらず窓を開けて太陽光をいれてしまった人がローソクメーカーによって訴えられるというような状況、まさにこうした情況がいま農業で起こっているわけです。

 特許があるがために農民はむはや自分の畑で収穫した種子を翌年蒔くことができません。それは蒔いてしまうと特許の侵害だとみなされるわけです。このことはすでにアメリカやカナダでおこっていることです。五00人以上の農民がすでにモンサント社によって訴えられています。そして確実に自分の会社の種子を買ってもらうためにモンサント社は私立探偵を雇って、誰かが自分のところで収穫した種子を蒔いていないか確認させました。また、無料の電話番号をもうけて隣の農家が蒔いているかどうか告発を奨励しました。次のような事態も報告されています。ある農民が遺伝子組み換え作物ではない作物を育てていましたが、遺伝子組み換え作物が混ざってしまったということがありました。そしてその畑からとれた種子を蒔いたところ、遺伝子組み換え作物の種子が混じっていたがためにモンサント社は特許の侵害だとして訴えたという事例も知られています。我々はここで根本的な闘いに直面していると思います、農民にとっての最初の自立性というのは、自分の畑で収穫した種子を再び蒔けるということではないでしようか。

遺伝子組み換え作物はいらない!

 また、こうした遺伝子組み換え作物は健康にとって、環境にとって大きな危険性を伴っています。今日こうした遺伝子組み換え作物の九五パーセントが除草剤に抵抗力をもっています。ということはその作物は除草剤を吸収しながら育っていくので、その植物を食べた動物、あるいは人間が汚染されてしまうわけです。

 多国籍企業は世界中で飢餓をなくすからとか、環境の改善に役立つからつくるんだとか言っていますが、それとはまったく逆のことが起こっているのです。企業がさらに多くの除草剤を売ることができるために、こうした種子が開発されていると考えるべきです。

 今日こうした商品化に抵抗すること、農民が自由ないし自立するために第一に闘わねばならないことは、種子を守るということです。これが中心的闘いですが、フランス・ヨーロッパ・日本・アメリカ・南アメリカ・アジア・アフリカ、全ての地域での共通の闘いであると思います。そしてこの重要性を前にしていくつもの国々において人々が立ち上がっています。それも農民だけではなく消費者も市民も立ち上がっていてこの遺伝子作物に対する闘いを展開してます。

 遺伝子組み換え農業がこの国に入ってきて推進されることを妨げるとのはとても重要なことだと思います。というのも遺伝子組み換え農業というのは、他の農業との共存を許さないからです。この遺伝子組み換え作物が拡散することによって次第にその他の作物が遺伝子組み換え作物によって汚染されてしまうからです。このように他との共存を許さない遺伝子組み換え作物の農業、全体主義的な農業といえると思います。

 したがって遺伝子組み換え作物に関しては最大限の透明性を求めなければなりません。国家に対してどういう形で試験が行われているのか、そしてある作物・製品がどこでどういうふうに作られているのかを確認できるような手続き、トレーサビリテイー(追跡可能性)が必要です。消費者に対しては、遺伝子組み換え作物を使っているのか、いないのか非常に明快な表示が必要です。そして最後にこの作物の実験が屋外で普通の畑で行われるのを妨げなけれぱならないのです。一旦そうしたことが行われた場合他の畑も汚染してしまうからです。

 こうした闘いを私たちはヨーロッパで行っています。それはかなりの成果をあげました。一九九九年には遺伝子組み換え食品の延期の政策がとられました。多国籍企業によるプレッシャーにもかかわらず行われたわけです。そして一ヵ月前新たな遺伝子組み換え食品を市場に流通させることを禁止した措置がとられました。こうしたことは農民たちが立ち上がったことによって可能になったわけです。そしてフランスにおいては一ヘクタールたりとも食物のために遺伝子組み換え食物が作られていることはないのです。

権利を主張しよう!

 こうした闘いの中で時に違法とされる行為も行いました。その法規に対して我々は農民の権利、消費者の権利、そして環境の権利を主張したいと考えています。そうした行動の枠内で試験中の作物を破壊したりしました。また種子をまぜて使用が不可能な形にもしました。それからフランスに来ていたインドの農民達と一緒に遺伝子組み換えの稲を破壊したりしました。こうした闘いは弾圧にもかかわらず続けられました。確かに監獄に入れられるというリスクもあるわけです。それを怖がってこの闘いを止めることはできません。そして我々の仲問の一人が収監されてしまうと、より多くの仲間たちが立ち上がって闘いを続けるという状況がみられます。

 そうした努力のおかげでヨーロッパにおいては、八0パーセントの人々が遺伝子組み換え作物に反対の意見を表明しています。これはとても勇気付けられる結果です。なぜ勇気付けられるのかというと、農民と消費者と一般市民が―食物というのは市民全員に関わってくるものであるわけですけれど―、三者が手に手を携えて共闘が組めるということだからです。

 したがって私は、日本のみなさまに遺伝子組み換えイネについて闘うことをおすすめします。そして場合によっては違法と言われるような手段をとらなければならないかもしれませんけれど、それも仕方がないというふうに思います。と申しますのは、遺伝子組み換えのイネを作ったあかつきにどういうことが起こるかというと、単に一つの基本的な作物が脅かされるということではないわけです。今日、米というのは地球上でもっとも代表的な穀物となっています。それに結び付いた文化も存在するわけです。したがって一旦遺伝子組み換えが行われてしまうと、単に作物が変わるだけではなく我々の自然に対する関係、文化に対する関係―そうしたものば何千年にもわたって培われてきたのもですけれど―、そうした一切が変わってしまうと考えなければならないからです。

不服従の闘いを!

 この遣伝子組み換えイネに抵抗するということは単に権利ではなく、もはや義務であります。それを行うべきところは単に日本という所ではなくて世界中で行わなけれぱなりません。この遺伝子組み換えイネを妨げるということは、非常に大きな課題となっています。 今日みなさんに不服従をすることをお勧めします。場合によっては違法な形で不服従することも必要だと思います。この遺伝子組み換えイネに対する闘いを行わなければなりません。何年も過ぎたあと、振り返ってみたときにその闘いを誇れるような業績を残していただきたいと思います。さすがに日本においては米作りが基本的な農業であったがために、そこで遺伝子組み換えのイネがストップされたんだ―こういうふうに振り返られる闘いをぜひ進めていただきたいと悪います。

 闘うと申しましても私達に武器はありません。物理的な力というものはないわけです。そうした力を振るおうとは思っていません。弱者の武器である非暴力を用いて闘わなくてはなりません。しかし我々が決然とした態度で臨むなら、さまざまな闘いを結び合わせることができるに違いありません。そうした連帯によって我々は世界を変えることができ、より公正な世界というものを作ることができるはずです。いつの日か我々は農民であることにまったく恥じることなく、むしろ大いなる誘りをもって農民であるいえる世界が来ることを願っています。そうしたことによってこそ農業と市民達の連帯、和解というものが成立するのであって、食料を絆にして我々は文化と自然との間の調和を再び勝ち取ることができると確信しています。

 最後にひと言付け加えます。私は今、「ビア・カンペシーナ」という国際的な農民の組織にも所属しています。この「ビア・カンペシーナ」は世界中の約一〇〇の組織を連合した農民の組織です。「ビア・カンペシーナ」とは「農民の道」という意味なのですが。そしてそこのスローガンを紹介したいと思います。「闘いをグローバル化しよう」、と。なぜグローバル化するのかというと「希望をグローバル化するために」です。ありがとうございました。

(アタック・ジャパンのご好意でテープ起しと写真を使わせていただきました。)(文責編集部)

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