JAPAN ORGANIC AGRICULTURE ASSOCIATION

日本有機農業研究会

 反遺伝子組み換え汚第最前線
 勇気あるカナダの老農 パーシー・シュマイザーさん

日本有機農業研究会 『土と健康』03年1・2月合併号 科学部 山田 勝巳

 イネの遺伝子組み換え研究が進み、モンサントのラウンドアップ・レディ(RR)大豆の生産を始める農家が出るなど、最近わかっているだけでも容易ならぬ事態が迫っている。非遺伝子組み換え(GM)種子の調達状況も、検査状況も遅々として進まないなか、カナダではGMを否定する農民がナタネの種子汚染を被り、しかも、モンサント社がそれを特許違反で訴え、その裁判で負けてしまうた。これは、対岸の火事と傍観していられない状況と思われた。

 12月の初め、機会を得てカナダを訪れ、裁判で闘う勇気ある農民と市民団体を取材した。


シュマイザーさん意気軒昂、しかし裁判費用はずっしり

 12月7日朝7時、ホテルを出発。外は真っ暗。カナダはサスカチェワン州都サスカトゥーンの東50マイルのブルーノに住む時の人パーシー・シュマイザーさん(71歳)宅をめざして9時の約束を守るために早めに出た。8時頃ようやく空が白み始めて周りを見ると一面地平線の見える大平原農地だった。信号も車もなく、予想した時間より1時間も早くついてしまったが、シュマイザーさんは快く迎えてくれた。

 シュマイザーさんは、1170工ーカーの土地でナタネと小麦を作る50年来の農家。その彼が、今は世界中を飛び回る遺伝子組み換え作物と戦う農民の象徴的存在になっている。取材に訪れた当日も南米での講演旅行から帰ったばかりということでたまった手紙やメールの対応に追われているようだった。

 事の発端は、モンサントが自社の持つ特許種子除草剤耐性ナタネ(ラウンドアツプ・レデイRRキャノーラ)を無断で栽培したと彼を裁判所に訴えたのが始まりであつた。

 現在、第2審まで終了し、周辺のGMキャノーラで汚染されたと主張するシュマイザーさんは敗訴しており、最高裁で審理されている。

 モンサントは、1996年栽培分からRR種子を商業栽培用として販売し始め、1997年には密偵を雇って種子を買わない農家のナタネを勝手に採集して特許侵害していないか検査をしている。シユマイザーさんの場合にも98年には、モンサントの代理人が訪れ、「特許侵害しているので特許料を払え」と言われ、この理不尽な要求に対しモンサントの圧力に屈しないと蹴った。

 これに対し、モンサントは彼を特許侵害で訴えたのである。この頃、モンサントは栽培地周辺の農家へこの種の脅迫状を送りつけ、ほとんどの農民はこれに屈服していったようだ。しかし、これを拒否して裁判に持ち込んだ。そうした勇気ある行動に立ち上がったのは、アメリカのネルソン一家とシュマイザーさんの他は、若千しかいない。

モンサントの暴力的販売拡大戦路

 モンサントの戦略(手口)をざっとまとめてみると、次のようである。

一 種子販売する。ラウンドアップをかけても枯れない、農薬が減らせる、除草の手間が省ける、収量が上がるという触込み。特許種子であること、従って遺伝子紅み換えであること、自家採種はだめなこと、等はあやふや若しくは説明しない(1996年から現在も)。
二 周辺農家の無断栽培を監視する。農民同士の密告を奨励する(このため地域杜会が崩壊の危機に瀕しているという)と同時に、勝手にどんどん農民の土地に入り込んでサンプルをとり検査する。
三 種子を買わない農家に検査結果を示し、特許侵害に対する要求書を出す。
  ○栽培面積分$115/工ーカー支払うこと
  ○今後三年間モンサントに自由に検査させること
  ○この示談内容は誰にも漏らさないこと
  ○この示談の公表の権利はモンサントにだけあることと書いた内容の手紙(1998年11月の手紙)を送りつけ、支払いとこの示談書への署名を1ヵ月の回答期限付きで要求する。
四 要求に応じない場合は、裁判にかけると脅す(ほとんどの農家がここで泣いている)。

 つまり、わざと特許種子であることは伏せ(告知義務不履行)、(嘘の広告で)騙し、汚染を広げてから特許を楯に、人の土地に勝手に入り込み(不法侵入)、サンプル採集し、(裁判にかけると)脅し、自社の種子しか使えないように追い込んでゆき、農民を支配する。

 このような強引なやり方が世界中で行われてきており、現在も程度の差はあれ、すべでのバイテク企業が同様の方法をとっている。農民に対する恐喝は、シュマイザーさんの1審敗訴後激化している。

裁判の経過とシュマイザーさんの事実

 シュマイザーさんの場合、第1審判決が2001年3月29日に、第2審が2002年9月4日に出た。いずれも、「どのようにしてRRナタネが生えたのかは問わず、生えていたこと自体が特許侵害だ」と判断している。

 「彼が密かに周辺の農家から買った」とか、「汚染を良いことに自家採種した」など、モンサントが主張したことは全く根拠が示せなかったので、判決の判断には入っていない。「自分の畑に生えていた場合、該当する種子会社に回収するよう求めなければならないのにそれを怠った」というのである。

 このように農民の自家採種する歴史的慣行や、農民を陥れる目的で勝手に入り込み、農産物を採るという人権を無視したやり方を裁判所が支持した背景には、非常に危険なものを感じる。

裁行き着く先は、食料支配、生命の支配になるのではと恐れる

 シュマイザーさんが、異変に気付いたのは1997年。収穫作業のために道路脇4m幅で除草剤をかけて回るのが例年の通例だったが、このときラウンドアップでは枯れないナタネがあるため農業普及所に相談して別の農蘂(2・4−D)も試している。それでも枯れなかった。

 彼は、この雑草化したナタネが農薬に抵抗力ができたためと考えてどう対応したものか相談していた。

 特許のある種だとは全く知らなかったという。

 1998年に50年近く自家採種してきた種子で栽培したがやはり同じように除草剤に枯れないものが出て、1999年には、自分の種子をあきらめ、全く別の種子を蒔いた。しかし、それも汚染があった。と同時に、こほれダネ、周辺から風で飛んだり雨で流された種、花粉飛散等で畑全体に汚染が進んでしまっていた。この間彼は、毎年のように農業事務所を訪れて相談している。

世界からの支援に応えて

 シュマイザーさんは現在71歳で、カナダ議会議員、市長なども歴任しており、引退して余生を送ろうと考えていたが、今では“裁判の費用、罰金等で25万ドル近くを支払い、そのために土地の3分の2近くが銀行の抵当に入ってしまって引退どころではなくなったという。今は、モンサントとの闘いが生活の中心で、奥さんも子供たち、孫たちも巻き添えになってしまっていると申し訳なさそうに話した。裁判を続けられる原動力は、世界中からの声援と支援だと言う。

 第2審で弱気になったとき、続けるよう回りから請われたが気持ちだけではどうにもならないと答えたのに対し、ヨーロッパの仲間は、我々が資金を集めると言ってくれたと話していた。話にも動きにも、全く年齢を感じさせない強さがあった。

カナダ最高裁が生命特許を否定する−12月5日

 日本を出発した当日は、日本で愛知県農業総合試験場がGMイネの開発中止を発表したが、じつはカナダでも画期的と思われることが起きていた。我々が訪問の挨拶をする間もなく、シュマイザーさんは、勢い良く「カナダ最高裁が、生命特許を認めないという判決を下した」というのだ。

 我々がキョトンとしていると、続けて「日本やヨーロッパの国でも認めているガンのできやすいハーバード・マウスは、特許法の精神からは発明とは認められず、高等生命に特許は適用できない。適用するかどうかは、議会が検討するのが相当として申請中の特許を拒否した。これは、自分にとって非常に有利だ」という。

 ここでいう高等生命とは、単細胞以外の生物と定義されているらしい。これに植物も入ると思われるので確かに有利ではある。このマウスは、1980年代にハーバード大学で開発され、ガンの実験用として日本でも特許を認めており、最高裁で逆転されるまでは、特許が支持されてきていた。

 同じ判事が彼の事件も扱うのか確認したところ、最高裁の判事は9名おり、定年までは変わることがないという。ただし、議会が新たに特許改正法を制定したり、裁判が長引いて判事が交替することがなければの話だが。

立ち上がる有機農家−国際協力を要請

 シュマイザーさんを訪問した後、モンサント杜とアベンティス社に対し、同じサスカトゥーンで集団訴訟を組織しているSODと彼らの共通の弁護士と面談することができた。

 カナダでは、農業規模が大きく、一単位が200エーカー(約100ha)で、認証有機農家も輸出向け農産物生産で規模が大きい。カナダでGMキャノーラが導入されて以来、有機キャノーラからGM遺伝子が検出され、ついに現在では有機キャノーラとして生産できる農家はなくなっている。そして、GM小麦の導入が間近に迫っている。有機農家950軒が、危機感を抱き、これ以上のGM汚染は許せないと、GMキャノーラによる損害賠償とGM小麦の差し止め請求裁判をこの12月20日に正式に提訴した。訪問時はまだ準備中だった彼らの希望は、「主要輸入国である日本やヨーロッパが、GM作物を輸入しないということを強く突きつけて欲しい」と言うことだった。

 この点については、すでに「GM小麦はだめ、混入も0%」という意思表示を輸入業者が昨年2月に出している。また、GM稲中止のニュースも大きな力になっている。

 今後とも世界的な情報交換と反対協力関係の中で、多国籍GM農業医薬品企業と闘うことが有効となる。特に日本の消費者の気持ちは、もっと伝えていく必要があると痛感した。

GMを排除して有機農業による問題解決を

 このカナダでの例を見ると、種子汚染を被った側が有罪になるというとんでもない判決になっている。特に、シュマイザーさんは、50年近く自家採種して種を選抜してきていたのが、それがだめになったうえ、土地も失いかけている。

 そもそも遺伝子組み換えとは、近代農法が育種、栽培において破綻しているのを遺伝子のせいにしてそれを変えようということで始まっている。土、水、環境を生命の棲めない世界にして、それでも必要な食物を生産する、商業的に成り立つ生産をとして育種してきたのが破綻したのである。ここには、有機農業という発想はない。一般に政策立案者、商業栽培者、流通業者は、有機農業では、収量が低い、手間がかかる、高い等で、国民を養えないと宣伝しており、多くの消費者もそう信じ込んでいる。

 GMを止めれば済むのではない。農薬・化学肥料で発展してきた農業技術、時期をずらした早出し・抑制出荷の施設栽培に合わせた育種、国際流通という食料の商品化などによる破綻が招いた遺伝子組み換えであることを考えると、GMを止めると同時に有機農業に向かうしか方向性はない。

 私たちが自然な食べ物を失い、心身の健康を失ってしまい、現在のような事態に至ったのは、その恩恵を充分に認識せず、伝えてこなかったからではないだろうか。「提携」を去る人が増え、輸入農産物が大手を振り、健康保険が破綻する。種子が農家の手を離れ、地域を離れて農家がいなくなる。

 私たちも、真に健全な命を認識し直し、それを維持する土、種、環境、食べ方、暮らし方をこれまで以上に広く伝えていく必要を強く感じる。


 遺伝子組み換えができなかったから現在の農業問題があるのではない。
 農薬・化学肥料が無かったから生産ができないのではない。
 輸入農産物がなかったから食えなかったのではない。
 高度医療・医薬がなかったから病気が増えたのではない。

 これをしっかり踏まえて有機農業へ、健康へ、と戻ることを伝えてゆきたい。

 この点で、本誌11月号で紹介した『食生活と身体の退化」は、目からうろこの落ちる知見だったと思う。ハワードの『農業聖典』(本会が2月に発刊予定)も正に同じことを伝えている。

 つまり、人も植物も遺伝子の持つ本来の力は、驚嘆するほどすばらしいものだ。

 人問も植物も病原菌があるから病気になるのではなく、栄養不良にその根本的問題がある。日本の近代化以前の伝統的生活を振り返り、微生物資材、生物農薬の前に、今一度「一応旧技術に立ち返る」とした結成趣意書(1971年)の旧技術を現代科学で検証し、再認識する必要があると感じている。

今後の活動に向けて

 さまざまなことを同時に行わなければならない


一 遣伝子組み換えは、どんなものも恩恵はない。従って、あらゆる分野での商業化は阻止する。一旦、環境中に放たれたら取り返しがつかない。
二 勉強会を開いて、本来の植物、動物、人間の健康のつながりを見直し、これを子孫に伝える運動を起こす。
三 全国で、健全な命を支える有機農業を実証するモデル農場を作りたい。ここには、”人間の実証モデル”を置く。
四 遺伝子組み換え作物を監視し、自分の県や地域では決して栽培させないようにする。


追記 アメリカでは、B型肝炎ワクチンや避妊薬在どを組み込んだトウモロコシによる周辺の作物汚染が発覚し問題になっている。これは単にトウモロコシの交雑汚染だけが問題ではなく、花粉飛散によるほかの作物の汚染も問題であることを示している。花粉にも遺伝子は発現しており、野莱、果物にも花粉が降りそれが人の□に入ることは当然起こる。知らぬ間に、避妊薬や肝炎弱毒化ウィルスを取り込むことが起きていると思われる。

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